2011年10月18日

静岡酒、この名役者、この名演技 6.

 しずおか地酒研究会の鈴木真弓さんのWEB酒場静岡吟醸伝に寄稿しています。

 「静岡酒、この名役者、この名演技」の第6章です。

 「静岡酒 苦難の時代」

 金沢酵母が開発されて以降、それを使ったお酒が全国新酒鑑評会でも好成績を取り出しました。
 全国の蔵元はこぞって、金沢酵母を使った吟醸酒を出品するようになりました。

 醸造協会も金沢酵母を協会14号として、全国に配布し始めました。

 時代はこれまでの熊本酵母から金沢酵母へと移ったのです。
 静岡酵母も熊本系であるために、これまでのように高評価を得られなくなりました。


 まさに「新しい潮流」が生まれました。

 新旧の潮流では、お酒の香りの成分が違います。

 これまでは「酢酸イソアミル」と「イソアミルアルコール」が主体であり、
新しい潮流は「カプロン酸」と「カプロン酸エチル」が主体です。

 これらを「イソアミル系」と「カプロン酸系」と呼ぶようにします。

 熊本酵母は「イソアミル系」が「カプロン酸系」よりも圧倒的に多く、
香りのタイプはバナナ型と表されています。

 金沢酵母も質量としては、「イソアミル系」の方が若干多いのですが、
人間が香りとして感じるのは「カプロン酸系」の方が大きくなります。

 同じppmの場合であっても、「カプロン酸系」の香りは強く感じられます。
 そのために金沢酵母は「カプロン酸系」の一つに数えられています。
 香りのタイプはライチとか赤い果実が代表です。

 静岡県の蔵元もこの新しい潮流である金沢酵母をこぞって使い出しました。
 県としてもこの潮流を受け入れざるを得ません。
 金沢酵母を教育しなおした静岡県版金沢酵母の配布まではじめました。

 これまで静岡酵母の恩恵に浸っていた蔵元が手のひらを返したかのように
金沢酵母へと移りました。

 その結果として、全国新酒鑑評会でもまずまずの成績を残しますが、
静岡酵母全盛期までには遠く及びません。

 酵母の進化は金沢酵母にとどまりません。
 さらに「カプロン酸系」を強く出す酵母が生まれ続きます。

 月桂冠がセロトニン耐性酵母を誕生させてからというもの、
次々と「カプロン酸系」酵母が生み出されました。

 平成10年頃からは金沢酵母に代わって、明利酵母が主役となります。
 明利酵母は強烈とも言えるほどの「カプロン酸系」の香りを造ります。

 香りのタイプはリンゴ型であります。

 全国の潮流も明利酵母への様変わりしはじめました。

 静岡県内においても、金沢酵母を使っていた蔵元は明利酵母へと移りました。

 さて、香りの高く出やすい明利酵母を使い始めた蔵が多くなった静岡吟醸、
全国新酒鑑評会での結果は。
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 金沢酵母時代よりも結果を残せません。

 静岡県のお酒は素晴らしいとの名声は勝ち得はじめてから、
実質の全国新酒鑑評会での成績は右肩下がりになってしまいました。

 全国新酒鑑評会などの結果がすべてではありませんが、
これを期に全国区となったため、どうしても気になる指標にはなってしまいます。

 全国新酒鑑評会の成績だけを見ますと、明利酵母を使うようになってからの静岡酒は、
静岡酵母誕生前の状況に等しくなったと言えましょう。


 主はこの状況をお嘆きになられました。

「良酒三蔵」と静岡経済研究所の紙面に書き、静岡酒の状況を説明されました。
私なりの要約ですが、静岡県内で真のお酒を造っているのは三蔵しかない。

 その三蔵は静岡酵母以外の酵母は使っておらず、生粋の静岡型と評されている
「国香」「満寿一」「喜久醉」であります。

 主は静岡酵母を使わず、明利酵母を使っていることを嘆いているわけではありません。


 通年販売するお酒にとって、カプロン酸は消費者にとって、有益だけではありません。

 搾った時点の新酒では、デリシャスリンゴのような香りがあります。
美味であります。

 熟成の段階において、打って変わったかのような、飲みにくい匂いへと変化してしまいます。
あるとき急に変化してしまうのです。


 世界中の酒類の中で、カプロン酸系が主役の香りを持つものがあるのであろうか?

 それは日本酒と焼酎くらいだけではないでしょうか。


 ・蔵元としてお酒は農産加工品であり、商品であるがため、市場が要求するようなお酒を造るのも使命。
 ・一方、鑑評会などのコンテストで優秀な成績も取りたい。
 ・そして、自社ブランドだけではなく、静岡酒というブランドも大事。

 金沢酵母誕生までは、上の3つの歯車がうまくいっていましたが、
それ以降、明利酵母全盛下にあっては、バランスもうまくとれません。


 さて、この状況下、どうやって乗り切っていくのか。

 新しい夜明けは来るのか。


 次回につづくといたしましょう。


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Posted by 丸河屋酒店 at 16:42│Comments(0)講演・講座・執筆
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